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躊躇う理由があるとすれば、若すぎることだった。
昨年の木原千裕さんは年齢制限ギリギリで1WALLのグランプリとふげん社賞の2冠に輝いた。いわば満を辞しての受賞だった。
対して、川口翼さんは平成11年生まれの22歳。写真学校を出て未だ2年。製本工場で働きながらやや古風な作家修行を開始したばかりなのである。昨年は誰よりも大きい段ボールに自作のダミーブックと大判の作品の束を詰め込んで提出。今年は募集初日に一番乗り。一生懸命と、枠に収まらないイメージの奔流がとにかく記憶に残る人なのである。心惹かれるが受賞はもう少しあとねと思っていた昨年から、大きく飛躍を遂げた。
 贈る言葉。于武陵『勧酒』
「勧君金屈巵 満酌不須辞 花発多風雨 人生足別離」(コノサカズキヲ 受ケテクレ
ドウゾナミナミツガシテオクレ ハナニアラシノタトヘモアルゾ 「サヨナラ」ダケガ人生ダ 井伏鱒二訳)

 渡辺 薫 

(渡辺美術印刷株式会社 代表取締役)

[第三回 ふげん社写真賞 総評]

  第3回目を迎え、ふげん社写真賞がどういうコンペなのか、多くの方たちに知られてきたようだ。応募者数は前回に比べるとやや減ったが、コンスタントに一定数をキープしている。世代間のバランスもとれてきた。特筆すべきなのは最終審査に残った10人のうちに、前回はゼロだった60歳代以上が2人ノミネートされていたこと。若手からベテランまで、幅広く関心が広がっていることのあらわれといえそうだ。また、今回も中国人、デンマーク人、日系ブラジル人などを含む国際的な顔ぶれになった。国境を越えた広がりが出てきたことも、とてもいいことだと思う。


 そんな中で、グランプリを受賞した浦部裕紀さんは、第1回、第2回の募集でも最終審査に残っていた。その実力は誰もが認めるところだが、面接の際のコミュニケーションがうまくとれず、受賞を逃してきた。今回は、作品のレベルがもう一段階上がっただけでなく、コンセプトや内容をきちんと伝えることができるようになり、ようやく受賞に結びついた。風化しつつある東日本大震災の「いま」に、多面的に切り込んだ力作であり、来年の展示や写真集の刊行が楽しみだ。さらに今回は準グランプリとして中村千鶴子さんを選ばせていただいた。中村さんも、いい仕事を続けてきた作家だが、地元の岩手県盛岡市の冬の情景を撮影した写真群は、じわじわと心に沁みる魅力を備えていた。


 次年度以降も、多くの方たちが、審査員を困らせるような素晴らしい作品をお寄せくださることに期待したい。回を重ね、刊行された写真集の数が増えてくれば、それだけ厚みと重みを増した賞として認知されていくのではないだろうか。

飯沢耕太郎(写真評論家)
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今回のグランプリ受賞者を決める時、ぼくは覚悟を決めました。

そして、写真集の発行元になるふげん社と選考員の飯沢耕太郎さんも覚悟を決めました。

「この居心地の悪い落差をきっかけに過去の記憶が不明瞭なまま頭の中で沸きたつことが時折あった」という今回のグランプリ受賞者の浦部裕紀くんに寄り添いながらリードして、これまでを復習してこれからを予習して、これまでになくみたこともない写真集を造る覚悟を決めました。

浦部くん、受賞おめでとう。来週から半年間、宜敷く。

町口 覚(造本家)

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 ふげん社写真賞の特異な点は、最終的に写真集を共に作り上げる人物を選ぶということにあります。長く困難な工程を共にする作品と人物を選ぶということです。選考員三人はそれぞれのポジションで一年後のお披露目に向けて共に歩む人物を決めるのです。

 ネットでボタンひとつ押せば誰にも会わずに上製本が安価に手に入る時代に何を大仰なと思われるかもしれませんが、やや時代に遅れた思いを私は抱いています。

 

 それは一人の表現者が世界の明るい光を浴びる場所に躍り出る一方で、同様な才能がありながらさまざまな要因からチャンスに恵まれない幾多の才能があることへの想いや、

造本の過程で出会うデザイナー、製版会社、印刷会社、製本会社、流通業者、全国の書店、そしてまだ見ぬ読者への想像力が持てる人であるか否かが、写真集の仕上がりを左右すると信じているということです。

 世界に祝福される作品であることのハードルは実に高いと思います。ふげん社写真賞は常にそこを目指します。

 

 浦部裕紀さんは唯一3回連続ノミネートの実力者です。ただこれからはこの才能を輝かせるために実に多くの人の献身的な働きがあるということを知ることになります。

浦部さんがそれを感じ取り、皆の思いを受けて存分にその実力を発揮することができたなら、このプロジェクトは成功に近づくと思います。おめでとう。でも本番はここから。

 

 準グランプリの中村千鶴子さんは過去3回に応募くださっており、今回がはじめての

ノミネートでした。宮沢賢治初期の草稿「冬のスケッチ」からインスピレーションを得て、

郷里の盛岡の街を撮り下ろした作品です。小品ながら名作エッセイのように心打つ作品です。盛岡という街の集合的な記憶が呼び覚まされるような不思議な感覚を覚えました。強靭な作家魂を感じます。

 渡辺 薫 

(ふげん社 代表・渡辺美術印刷株式会社 代表取締役)

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[第三回エントリー集計結果]

第三回ふげん社写真賞は、2023年7月1日(土)〜9月30日(土)に募集を行い、138名の方にご応募いただきました。​

応募者の性別、世代、居住地、応募回数の割合を下記に発表いたします。

性別

世代

​居住地

応募回数

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