

第三回 ふげん社写真賞 グランプリ受賞作品
浦部裕紀「空き地は海に背を向けている」
茨城から岩手にかけての海岸沿いを主に撮影した。
かつて起きた津波によって大きな被害を受けた地域だ。
あの時の衝撃は、もううまく思い出せない。
受け止めきれないまま、忘れてしまった。
何度現地に足を運んでみても、それは変わらなかった。
だが、この居心地の悪い落差をきっかけに過去の記憶が不明瞭なまま頭の中で沸きたつことが時折あった。
うまく思い出すことができない過去の衝撃と、いま目の前にある現実が干渉し合う。
その様子は時々モアレのような現象を生む、新たな波打ち際のようだった。
応募時のタイトル:「Dry Blue」



写真集
浦部裕紀『空き地は海に背を向けている』

―――あの映像はぼくの記憶の水底に澱のようなものを残し、
それは今になって確かな熱を帯びていた。
本作『空き地は海に背を向けている』は、2011年3月11日の東日本大震災に端を発しています。当時東京にいた浦部は、メディアが連日衝撃的な映像を流し、「連帯」を熱心に呼びかけ、そしてそれを忘れていく社会に強烈な違和感を抱いていました。
9年後、パンデミックが全世界を覆い、「自粛」や「ステイホーム」などの言葉が飛び交うようになった時、浦部は被災地で「安心と安全」のために建設された防潮堤のことが気になり、複数回にわたって足を運ぶことになります。
そこで海と陸を無機質に分断する巨大な防潮堤と、コピー&ペーストを繰り返したような防風林の、あまりに単調すぎる風景を目の前にして、当時繰り返しモニター越しに見ていたショッキングな津波の映像の記憶との、あまりの落差に眩暈がしたと言います。
その実感を一枚ずつ定着するかのように、岩手県宮古市から茨城県東海村までの海岸線沿いの空き地や、震災伝承館の模型、延々とつづく防潮堤、そして靄のように脳裏に浮かび上がる津波の映像を、東京の自宅でモニターにシフトレンズを向け長時間露光撮影していきました。
東日本の海岸線の景色と、脳裏に焼き付いて離れない映像の記憶が、交互に立ち現れるこの大判写真集は、浦部が社会や自分自身に対して感じた「やりきれなさ」や「怒り」が映り込み、2011年以後に生きる私たちに強く揺さぶりかけるでしょう。
★2024年7月20日発売・雑誌『写真』(Sha Shin Magazine)vol.6「ゴースト/Ghost」に紹介記事が6ページにわたり掲載
浦部裕紀『空き地は海に背を向けている』
2024年6月30日発行
写真・テキスト 浦部裕紀
造本設計:町口 覚
デザイン 清水紗良(MATCH and Company Co., Ltd.)
編集 関根 史
翻訳 村上むつ子
発行人 渡辺 薫
発行所 ふげん社
印刷 渡辺美術印刷株式会社
サイズ:B4変形(249×312mm)
仕様:並製本、オープンバック
頁数:96頁
写真点数:86点
ISBN 978-4-908955-30-3
¥6,600(税込)
浦部裕紀展 Gallery Tour Report

第三回ふげん社写真賞グランプリ受賞記念・浦部裕紀個展「空き地は海に背を向けている」会期中2024年7月20日(土)にふげん社で開催した、ギャラリーツアーの詳細なレポートです。
ふげん社ディレクターの関根が聞き役となり、浦部裕紀さんに作品の概要、写真集の編集過程について、展覧会の作り方などお聞きしました。
展覧会

第三回ふげん社写真賞グランプリ受賞記念
浦部裕紀個展「空き地は海に背を向けている」
同時開催:準グランプリ・中村千鶴子個展「冬のスケッチ」
会期:2024年6月28日(金) 〜7月21日(日)
火〜金 12:00〜19:00
土・日 12:00〜18:00
会場:コミュニケーションギャラリーふげん社
〒153-0064 東京都目黒区下目黒5-3-12
★2024年6月29日(土)14:00〜15:30
ギャラリートーク 浦部裕紀×飯沢耕太郎(写真評論家)×町口覚(造本家)
参加費 1000円(会場観覧・オンライン配信)
★2024年7月6日(土)、7月20日(土)各日14:00〜14:30
ガイドツアー(無料・申込不要)

浦部裕紀 Hiroki Urabe
1985年東京都生まれ
早稲田大学大学院理工学研究科修士課程修了
以降フリーターや無職を経て現在はカメラマン
第11回写真「1_WALL」ファイナリスト
第13回写真「1_WALL」ファイナリスト
第三回ノミネート作品
伊藤トオル「瀧を描く」
浦部裕紀「Dry Blue」
Carl K. Svendsen「神々のマスク」
榊原祐輔「Back to home」
中村千鶴子「冬のスケッチ」
馬場さおり「火花」
藤原香織「空白を埋める」
付超「ヤードセール」
堀由紀江「孤独な旅」
宮地祥平「New Portraits」