

第5回 ふげん社写真賞 グランプリ受賞作品
中野泰輔「Spin around the Night Consumed by the Fire」
ある時耳にした、一つの事件を起点に、この作品を作り始めた。
現場を歩き、語りを集め、墓石をめぐる旅を続けるうちに、
欲望の記憶が緩やかに混じり合っていった。
あの夜の奥には、顔を失った男たちの声がまだ漂っている。
彼らの呼気に触れるたび、私を形作る境界が崩れていく。
応募時のタイトル:「That Night in the Wild」




写真集
中野泰輔『Spin around the Night Consumed by the Fire』

―――「ゲイ狩り」の事件を起点に生と死、自己と他者、現実と想像の間をゆくイメージの奔流。
装釘は、台湾を代表するデザイナー聶永真(アーロン・ニエ)。
1994年生まれ東京を拠点に活動する写真家・中野泰輔が第5回ふげん社写真賞グランプリを受賞した本作は、2000年にハッテン場の公園で発生した「ゲイ狩り」の殺人事件の犯人が、自身と同姓同名であったことを発端に制作されました。ゲイ当事者である中野は、ストレートの男性がゲイの男性を手にかけたその事件を耳にしたとき、殺された男性の亡霊が今もその公園で男を物色して彷徨い続けているイメージが脳裏に浮かびました。そこから中野はカメラを携えた霊媒師となって、地縛霊となった男の魂を解放していく「クエスト」を始めることになります。
事件現場を歩きつつリサーチを重ねながら、墓石の不法投棄場や江戸の石切場を撮影したり、ストレート男性の身体をストロボを焚いて撮影していく中で、現実と想像、生と死、自己と他者、ストレートとゲイなど、あらゆる境界線が曖昧になっていく感覚があったと中野は言います。その結果生まれたイメージ群は、昼と夜の間に現れる、いわゆる「逢魔時」の独特な紫色のトーンに包まれています。
人間の欲望が渦巻くある一つの出来事を起点に始まった中野の「旅」は、世界を分かりやすくカテゴライズしようとするものに抗い、不確定な揺らぎある境界線上を歩くことで、豊穣なイメージの連なりを生み出しました。それは肉体という入れ物に欲望や感情が詰まった人間という得体の知れない存在を、写真を通して表現しようと試みるものです。
台湾を代表するデザイナーである聶永真(アーロン・ニエ)を迎え、その人々の欲望を巡る旅路が248ページの実験的な書物へと昇華しました。作家によるテキスト2篇を収録。
*タイトルは、ラテン語の回文「In girum imus nocte et consumimur igni」(夜 円を描き続け やがて燃え尽くされる)を英訳したものです。
★2026年7月1日発売・雑誌『写真』(Sha Shin Magazine)vol.9に紹介記事が掲載
中野泰輔『Spin around the Night Consumed by the Fire』
2026年7月3日発行
デザイン:聶永真
判型:B5変形
頁数:248
仕様:上製本
出版:ふげん社
印刷:渡辺美術印刷株式会社
発行年:2026年
本体価格:9900円(税別)
ISBN:9784908955501